描かれた事物の背景を知り、その時代の文化や社会を解き明かす

台所に立って切り盛りする男性や、野菜のコスプレではしゃぐ民衆、はたまたオナラで演奏してお金を稼ぐおじいさん。これらはすべて、室町時代から江戸時代にかけて描かれた絵本や絵巻物に登場する人物です。高校までは室町文化というと金閣寺や能、武家様式、枯山水などを学びますが、一方でこのような好奇心をそそる作品が生まれていました。そこに描かれる道具や料理、作法、衣装のモチーフなどを精細に研究すると、海外とのつきあいや貿易、職人の技術、習慣、食生活など当時の社会が立体的に浮かび上がってきます。絵画で表現されたさまざまなテーマが何を意味し、どんな文化を内包しているのか。それを解き明かしていくのが「日本文化史」の授業です。

自由で発展的だった室町時代を、現代の視点から考える

冒頭で「台所に立つ男性」に触れましたが、実は、室町時代は男性も普通に台所仕事をしていました。この頃は頻繁に戦争がおきており、男性は戦場に出ると自分たちで食事の準備をします。料理が上手な男性は尊敬されたので、台所に立つのも当たり前だったのです。また、室町時代は男性も女性も職業を持って自分で稼いでおり、財布も別々。一般にイメージするよりも性別に上下関係がなく、自由で発展的な社会だったことがわかります。やがて世の中が平和になると、儒教の影響もあって女性の立場が男性に従属的なものへと変化していきます。ここにはさまざまな要因がありますが、このように大昔に描かれたひとつの絵から女性論やジェンダー論を展開することも可能なのです。

日本文化を知ることで、外国文化への理解が深まる

さまざまな絵巻物を調べていくと、現代日本の技術や文化のルーツは室町時代にあることがみえてきます。漫画やアニメも、もとをたどると行き着く先は室町時代。それらの絵画表現は、明治時代に入ると「美術」とは異なるカテゴリーとして軽視されるようになります。そんな歴史を知ることで、文化とは何か、日本文化は現代社会の中でどんな形で存在しているかを探っていきます。

古い作品は外国に流出したものも多いため、海外では絵巻研究や奈良絵本研究が盛んに行われています。海外留学で日本文化に詳しい外国人に出会い、刺激を受けて帰国後にこの授業を受講する学生もいます。海外からみた日本文化と自分の考えを比較し、その相違がどこから生まれるのかを知ることは多文化理解につながります。日本文化研究が多文化理解につながるというと意外に感じるかもしれませんが、この力は将来、外国と関わる仕事をするときに大変役立ちます。「面白い」と感じるものに出合ったら徹底的に突きつめ、悩み抜いて自分だけの答えを出す。そこからみえるものを大切にしてほしいと思っています。

国際コミュニケーション学部 表現文化学科 伊藤 信博 教授

専門の日本文化史を基盤に
他分野を巻き込んで新しい地平を開拓する。

国際コミュニケーション学部 表現文化学科 伊藤 信博 教授

私の授業は高校までに習う日本史では触れられない史実や文化背景を扱うので、最初は戸惑う学生が少なくありません。そんなテーマをあえて採用しているので、学生にとっては知らないことばかり。それもそのはず、同じ研究をしている研究者も少ない分野なので、常に最先端なのです。それだけに誰も手をつけていないテーマを発見できる楽しさがあります。

また、総合大学のメリットを生かして他学部とのコラボレーションも積極的に進めています。今までは、「紅血米」という室町時代に栽培されていた品種のコメを入手し、生活科学部で管理栄養士をめざす学生に栄養素を調査してもらったり、江戸時代の文献を参考に当時のお菓子を再現してもらったりしました。今後は、古い本の種類を和紙の違いから解説するセミナーを図書館で開催しようと計画しています。これは学生自身が調べて発表し、質疑応答まで行うので、体験を通して知識を定着させることができます。こういった企画を今後も実践しようと考えていますので、楽しみにしていてください。

※2019年度実施授業