国際言語コミュニケーション学科
英語圏文学を読む
海外の文学作品を
原書で読むことで
歴史や社会背景を
擬似体験する。
もし『竹取物語』の英語版にかぐや姫が一切登場しなかったら…?
日本の古典『竹取物語』がどんな言語に翻訳されていたとしても、かぐや姫が登場しないなんてあり得ないですよね。でも実際にそれに類することが起こったりします。『アンクル・トムの小屋』というアニメをご存知でしょうか?1970年代に日本で放映されたアニメですが、原作は19世紀にアメリカで書かれた小説です。この小説がきっかけで奴隷解放運動、そして南北戦争が引き起こされたとも言われるほど、社会に大きなインパクトを与えた小説でした。その小説が日本でアニメ化される際、なんと、本のタイトルにもなっている主人公のアンクル・トムも、トムの小屋も一切消し去られてしまいました。なぜでしょうか。原作が社会に大きなインパクトを与えるのに二つの戦略が主要な役割を果たしました。一つはキリスト教的価値観に訴えかける戦略、もう一つは母と子の愛情に訴えかける戦略です。日本版のアニメでは母と子の愛情に訴えかける場面だけが残り、キリスト教的価値観に訴えかける場面は削除されています。キリスト教的価値観が日本人にはなじみが薄かったため、削除した方が日本人には受け入れられやすいという判断があったのでしょう。このように、海外小説が日本で紹介されるときにどう変容したかを知ることは、原作の舞台についてだけでなく、日本社会について学ぶことでもあります。

アメリカやカナダの小説や詩を英語で読み、時代や社会背景を想像する
授業では主に19〜20世紀のアメリカ文学を読み、作品が書かれた歴史・社会・文化的背景への理解を深めます。扱うのは女性や黒人などマイノリティによって書かれた作品で、原書を読みながら解説を加えていきます。文学作品で使われる英語は、高校までに学習する英語とは異なり、時代や国・地域によってスペルや文法が違っていたり、なまりがあったりします。原書に挑戦するのは、翻訳されると失われてしまうニュアンスを感じとるためです。また授業では、演説なども取り上げます。アメリカでは著名なハリウッドセレブが過去の優れた演説を引用することが多く、人種、ジェンダー、セクシュアリティの問題は、かつて行われていた主張を現代のコンテクストに当てはめられるものも少なくありません。当時の人の声に傾聴し、作品が生まれた時代を想像しながら原書に向き合うと、作品に込められたメッセージがリアリティを伴って理解できます。

過去の問題は、現代を生きる自分自身の問題でもある
女性や黒人差別を描いた作品を読んだ後、「この時代に生まれなくてよかった」といった意見がでることがありますが、作品に描かれていることは過去の問題とは限りません。1970年に、黒人の少女が青い目に憧れる『青い目が欲しい』という小説が発表されました。その少女は、白い肌、青い瞳、金色の髪といった白人を基準とした美へ憧れるあまり、自分自身が肯定できなくなります。小説ではそれが個人の問題ではなく、社会システムに深く根付いた価値観のせいであること暴きます。私たちはこの作品をアメリカの問題として読んでしまいがちですが、髪や瞳の色を明るくしておしゃれを楽しむ現代の日本人にも当てはまるのではないでしょうか。歴史の陰には、社会的弱者のストーリーが数多く存在しています。そのような物語に触れると、価値観の形成プロセスへの理解が深まります。その理解を深めた上で、自分の置かれている状況を振り返り、自分自身の考え方(何を当たり前と考えるか)が、どのように作りあげられてきたか考察するという視点を、授業を通して培ってもらえればうれしいです。


※この記事は、2019年度の授業内容を取材したものです。